決まり事を違えて皆に隠してまでもっと売れるものを作ろうとするだなんて、真面目な雷蔵らしくもない拙速ぶりだ。
三木ヱ門がぽろりとそんな感想を漏らすと、雷蔵が黙った。
怒らせてしまったのか兵助に潰されて声が出なくなったのか、見た目にはどちらとも分からなかったので、とりあえず兵助の肩を叩いてみた。
「眠ってらっしゃいます?」
「いやー。起きてる」
兵助がぱちりと目を開いた。黒目が不規則にきょときょと動き、自分に話しかけた声の主を探している。
三木ヱ門はその目の前にひらひらと手をかざし、視線を誘導してから、兵助が背中の下敷きにしている雷蔵を示した。
「不破先輩が平たくなってしまいましたよ」
「お」
弾みをつけてぽんと上体を起こした兵助は、重石が取れても前屈したままの雷蔵ではなく、その斜め前にいる三木ヱ門を見て、なぜか咎めるような表情をした。
「お前、雷蔵に何をしてこんなにへこませたんだ?」
「物理的にぺったんこにしたのは久々知先輩です。……と言うか、不破先輩のこの状態って、へこんでらっしゃるんですか」
「……へこんでない」
馬に踏まれたカエルのようになっている雷蔵が反論した。しかし、姿勢といい今にも降り出しそうな曇天の雨雲よりも低く沈んだ声といい、説得力はない。
「そりゃ、焦るよ」
そう言いながら雷蔵ががばっと起き上がった。珍しく少し怒ったような口調になっているが、三木ヱ門に向けた顔は、なんだか泣き出す寸前のように見えた。