すると衝立の真後ろに、目を皿のように見開いた兵助が張り付いていた。
「ぎゃぁ!」
悲鳴を上げた三木ヱ門が思わず一間も飛び退くと、何事かとそちらを見た文次郎と左吉は、衝立の天辺に手をかけ鼻から上だけ覗かせて瞳をきょときょとさせている雷蔵を見て動きが止まった。
「キルロイ参上の真似――な訳、ないよな」
「目がよく見えてないだけだよ。瞳孔の拡縮がうまく調節できないみたいで」
唖然として呟いた文次郎に、横を向いたまま伊作があっさりと言う。
「軽い神経毒のせいで一時的なものだから後遺症の心配はない。今、左近が薬湯を飲ませたから、じきに治るよ」
一本調子に説明して、話すならどうぞと、及び腰の三木ヱ門に向かって手を振ってみせる。
焦点が遥か彼方に飛んでいる雷蔵の目と目が合ったものの、認識されずに素通りされた三木ヱ門は、おっかなびっくりもう一度衝立に近寄ってこわごわ呼び掛けた。
「あのお、不破先輩」
くるんと雷蔵の黒目が回る。そこに三木ヱ門がいるのが分かっているのかいないのか、しかし三木ヱ門が立っている場所に顔を向けて、にこりとした。
「だぁれ?」
少々ろれつが怪しい。
血圧が低い人の寝起きみたいだと三木ヱ門が思った瞬間、雷蔵の姿がすとんと下に消えた。
「うわ、貧血ですか? 大丈夫です――」
か、と最後まで言い終わる前に、ずいと突き出された手に衝立の向こうへ引っ張り込まれた。
「ひゃっ」
これは誰の手だと辿って見れば、そこにいたのは相変わらず目をかっぴらいている兵助だ。手に触れるものを片っ端からぐいと引いてみたらしく、左手で三木ヱ門、右手で雷蔵の背中を掴み、それを交互に見て首を傾げている。
「あははは、ははははは」
強制的に尻餅をつかされた雷蔵は、床にぶつけた尾底骨が痛いだろうに、声を上げて楽しそうに笑う。
……なるほど、壊れてる。