「すずめ……、ああ。ほどけちまった」
喜八郎の目線を辿り、文次郎は自分の首にするりと手を回して、首に結んだふくら雀を見られていたのかと苦笑した。
くりくりと目を動かした喜八郎が溜め息混じりに嘆く。
「勿体ないですねぇ」
「まあ……な」
「あれ三木ヱ門が作ったんでしょ?」
「喜八郎、文脈がおかしい」
三木ヱ門の方を向いて当然のように残念そうな顔をしてみせる喜八郎に、三木ヱ門は首を振りつつ指摘する。それではまるで、僕が結んだふくら雀がほどけたのが勿体ないと言っているように聞こえるじゃないか、と。
斜め後ろ下を向いた文次郎がぼそっと何か言った。
「……"あってる"?」
「おぉ!?」
上級生たちの会話に割り込まないよう後ろに控えていた左吉が、文次郎の小声を聞き止めて首をかしげた。まさかそこに一年生がいるとは思わなかったらしい文次郎は驚き、その声に驚いて飛び上がった左吉の首根っこを掴んで、ぐいと前へ押し出した。
「俺らも急患だ。急いでいる」
「左吉、元気そうですけど」
「喜八郎はなんでここにいるんだ?」
気を逸らそうとして三木ヱ門が袖を引くと、んー、と唸って暫く考えた喜八郎は、「人命救助?」と疑問形で答えた。