屋外で発生した怪我人や病人をすぐに運び込めるよう、医務室は校庭に面した位置に間口を大きく取った引き違い戸が設えてある。
その出入口の前には、いざという時には何人かまとめて寝かせておけるくらい幅の広い廊下がある。
今がその「いざ」って時か?
「野戦病院か、ここは」
うずくまって座っていたり横になって丸まっていたり、吹きさらしの廊下にわだかまる人の群れを見た文次郎が呆気に取られて呟く。学園のあちこちを右往左往している間にひょっとして敵の襲撃でもあったのかと身構えた三木ヱ門は、その割には誰も怠そうなだけでケガひとつない、と気付いてたちまち緊張が解けた。
「おや、三木ヱ門だ」
廊下の端に腰掛けて足をぶらぶらさせていた喜八郎が同級生の姿を見つけて手を振る。そのすぐ隣で膝を抱えているのは勘右衛門で、以前に見た時よりも随分と不景気な顔つきでどんより縮こまり、腫れぼったい目をしばしばさせている。
隣り合っているが、連れではないらしい。ぽんと立ち上がった喜八郎は、勘右衛門に断るでもなくてくてく三木ヱ門に近付いて来ると、「まだ宿題ができないよ」と不満そうに頬をふくらませた。
「やる気はあるのに状況が邪魔をするんだ」
「この死屍累々は何事?」
「みんな風邪っぽいね。鼻と喉に来るやつが急に流行って、」
言われてみれば、誰かがくしゃみをしたり咳をしたりする音はひっきりなしに聞こえるが、これだけ人数がいるのに話し声は全くしない。喉が枯れて声を出すのも億劫でひたすら押し黙っているのだ。
「医務室にいい"鼻の薬"があるって噂を頼りに、集まってきたみたい」
「……」
喜八郎の言葉に三木ヱ門が横目で左吉を見ると、左吉はにーっと口を横に広げてみせた。
「お前は元気そうだな」
「あ、潮江先輩。すずめ逃げちゃったんですか」
横から声を掛けた文次郎に喜八郎が妙なことを言う。