――黙。
巨大なその一文字が三人の真ん中に出現して居座った。
無言の空間を梢が風にさざめく音がさやさやと埋める。
音を遮断されるついでに頭も固定されている左吉は目だけ動かして先輩たちの様子を窺おうとするが、ぽかんとした三木ヱ門が見えるばかりで背後の文次郎がどんな顔をしているのか分からず、やきもきしたように足踏みしている。
軽い羽音がした。
左下から右上へ飛び去って行ったその音ではっと我に返り、三木ヱ門は忙しく瞬きをした。
「あの、今のは、」
「言うな、聞き返すな、二度は言わん」
大上段からの拝み打ちに似た勢いで文次郎は三木ヱ門の問い掛けを阻止した。
今日の放課後、最初に会った時のようにきつく眉間を狭めている。漆喰のように塗られていた白粉は既に落としているし、目の周りと唇に引いていた緋色も消えている。なのに、文次郎の目元はうっすら赤らんで見える。
……と言うことは、これは不機嫌なのじゃなくて、決まり悪さが極まった時の表情なのか。
……つまり、今の台詞はそれほど口に出すのが照れくさかったのか。
……信用して、頼りにしてくださって、そして、
……「面白くねえ」って?
「わあー……」
ゆるゆると浸透してきた言葉は頭ではなく胸に響いた。そう言えばさっき強く叩かれた。それとは多分関係ない。関係ないけど。
本当に焼きもちだったよ!
叫びたいような噛み締めたいような気持ちで三木ヱ門は胸を抑えた。