「お前がどこで何をして来たのか、正直、気にならねぇ訳じゃない」
そこまで言って文次郎はなぜか少し目を逸らし、口の中で何か呟いた。
もの問いたげな顔をした三木ヱ門を横目で睨む。そして、"渋々"とはこういうものだと見本になりそうなくらい渋々と、
「正確に言やぁ、"気にしねぇ訳じゃない"」
と早口に言った。
「気に――?」
「それでも」
オウム返ししようとした三木ヱ門をやや語気を強めて遮り、右手で左吉の頭をぐらぐらさせながら、そしてやっぱり視線は明後日の方に逸れたまま、一気にぶちまける。
「お前があれやこれや解決しようとしてガンバッて駆け回っていたことぐらい分かる。んでその中にどうしても伏せなきゃならねえ事柄があったとして、その一点を以てお前の頑張りは全部チャラか。そうじゃねえだろ。頭と体力を使って色々と調べ上げて来たことは事実だろう。お前が伏せるべきだと判断したことを俺がぐちぐち言ったらその努力を汚すことになる。それは――」
適切な言葉を探しあぐねたように、数秒、間が空いた。
口を開いて目をうろつかせる文次郎の表情が、珍しいのでなんとなく面白い。そう思って呆気にとられつつ三木ヱ門が観察していると、文次郎は一度ぐっと口をへの字に結んで、
「……俺が情けない」
と低い声を押し出した。