知っているけど喋りません、と貝になったのを当てこすられたような気になって、三木ヱ門は二の句に迷った。
持って回った嫌味を言う人物ではないからこれは被害妄想だ。
つまり文次郎に隠し事をした上、それを追及しないと言われて安堵したことが、思っている以上に後ろめたいのだ。
「……あのなぁ」
あー、えー、と口を濁しながら落ち着きなく目を泳がせる三木ヱ門に、文次郎が溜息をついた。
「俺は信用がないのか?」
「ひぇ!?」
氷の塊でも吸い込んだような声が出た。三木ヱ門が慌ててぶんぶんと首を横に振ると、左吉も何故かそれに倣った。
「とんでもない。潮江先輩はとっても頼りになります」
「そうか。それはありがたい」
左吉の短い髷を掻き回すようにぐしゃぐしゃと頭のてっぺんを撫でる。そして、左吉に先を越されて所在無さ気に佇んでいる三木ヱ門を見て、文次郎は空いている方の手を上げた。
「田村も撫でてやろうか」
「えっ!? いいえ、その、私は四年生ですから、遠慮します」
皿を割るぞと脅された河童さながら、思わず頭の上を両手で隠して後ずさった。そしてすぐに、ただの軽口を強く拒絶し過ぎたかとひやりとする。
と思ったら、目の前にすっと文次郎の手が伸びた。
「痛っ」
指先で強く額を弾かれた。
「だよな。お前を撫でるのは何か違う」
「……だからでこピンですか?」
「いや、すまん。それはノリだ」
ひりつく額をさする三木ヱ門に軽く謝って、しかしな、と文次郎は続ける。