両の眉尻を下げられるだけ下げた顔で左腕を石火矢に食われている作兵衛と、機嫌は悪いが怒るよりも戸惑っている様子の三木ヱ門を交互に見て、八左ヱ門は首をひねる。
「なんでそうやってるのかはさておき、腕が抜けなくなった?」
尋ねられて、作兵衛の口が酸欠の鮒のようにぱくぱく動いたが、声は聞こえない。
「で、カワイイ石火矢にちょっかいを掛けられてるのを見て、そのしかめっ面?」
「……作兵衛が鹿子を損ねるようなことをする、とは思いませんが」
渋々、という口調で三木ヱ門が言う。
他人が大切にしている物に作兵衛が悪戯をするのは考えにくい。ならば、砲身に腕を突っ込んだ事には仔細な理由があるか、そうでなければ全く魔が差しただけの無意味な行動なのだろう。だけど僕の鹿子に勝手に触るな!
特大の苦虫を噛み潰したような三木ヱ門の顔を見て、八左ヱ門はとりなすように軽く笑った。作兵衛と石火矢に近寄り、よく手入れされたつるりとした砲身を、猫の子に触れるようにして撫でる。
「口径がちょうど拳くらいの大きさだもんなぁ。ぴったり嵌まっちゃったんだろ」
な? と笑う八左ヱ門の言葉に、もう下がるまいと見えた作兵衛の眉がますます下がり、何かを言いかねているかのように唇が尖る。
両手を腰に当てて怒らせていた肩をふっと緩め、ため息をついた三木ヱ門が「食満先輩に……」と言いかけた時、
「はちやぁあぁーっ!!」
凄まじく気迫のこもった怒声が三人の背後から飛んで来た。