「……はい、何でしょう? すいません、ぼんやりしてました」
足を止めて訝しげに自分を見ている文次郎が目に入って、三木ヱ門は慌てて頭を下げた。
「いや、いいけどよ。ぼーっとしてコケるなよ」
「気を付けます」
「それと、もう少し前へ出ろ」
左吉がいるのと反対側の左手で文次郎が手招きする。おっかなびっくりの体で三木ヱ門が横に並ぶと、「別に噛み付きやしねえ」と苦笑いした。
「収支報告書の件で分かったことを、今のうちに教えてくれ。先にはきり丸がいたから聞けなかった」
「きり丸が? ――ああ」
焔硝蔵で兵助に煙にまかれて、その後の行き先を見失っていた時のことだ。いかにも秘密めかしてきり丸がチーム牡羊座とか言い出したものだから、留三郎と何をやっているのかと文次郎に問い質されて、答えに窮して「内緒です」なんて下手を打ったのだっけ。
歩きながら報告と言っても、掴んだ情報が頭の中でごちゃごちゃと絡まり合っていてどこから話したものか迷う。
考えをまとめようと、口を閉じて、軽く眉間にしわを寄せて顎を引く。
「話せることだけでいい」
深刻そうな表情になった三木ヱ門に向かって、文次郎はそう付け加えた。