豪華な首輪を小猿に与えたのが誰なのかは知らないけれど――と考えて、三木ヱ門はちょっと両手で左右の肘をさすった。
そのものの値段自体が高いのは勿論、「どこそこの誰々が珍しい猿のために大枚をはたいて特別に誂えた」という付加要素付きの逸品を紛失していたら、弁償は……金銭で済むものだろうか。誰のせいでもない、他でもない猿自身がどこかで落としてしまったという事実は、この場合関係ない。重要なのは、愛玩物のために金と手間を掛けることを惜しまないと世間に宣伝したい、「えらいひと」の体面とやらだ。
……もしかしてこの首、結構、風前の灯火だった?
ゾワッと来た。
「なんだ。寒いのか」
一瞬で三木ヱ門の腕に浮いた鳥肌を見て文次郎が言う。手に持っていた手拭いを慌てて顔に押し付けて鼻をかむ振りをしながら、はい少し、と頷いた。
八左ヱ門は山の中で木下から小猿を受け取った時点で首輪がなくなっていることに気付き、その事が引き起こすだろう事態を承知していたはずだ。それをおくびにも出さないで、小猿の確保を最優先に奔走したのは、深い事情を知らない一年生たちを動揺させない為――だろうか。
常に何かに慌てているような気がしていたが、その実、結構な胆力だ。
八左ヱ門はしっかり合わせた両手を目の高さに上げ、拝むように軽く揺すった。
「首輪が返って来たから、これでもう逃げないといいんですが……檻の鍵を替えて、三重くらい掛けたほうがいいな」
「そんなに大事なもんならしっかり閉じ込めとけ。――で、俺らは医務室だ」
泥を払って立ち上がった文次郎が、三木ヱ門の手首を取って無造作に引っ張り上げた。
「あそこなら暖かいし、――訊問が待ってる」