「どんな酔狂だよ。……それなら、これは竹谷に渡せばいいのか?」
三木ヱ門と八左ヱ門の両方に文次郎が尋ね、2人同時に首肯した。
「お預かりします。ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「手拭いはタカ丸さんからの借り物です。そちらは私が」
「ん」
文次郎は八左ヱ門が差し出した手のひらに慎重な手付きで飾りを移すと、手拭いの方はきちんと角を合せて畳んで、三木ヱ門に差し出した。そのついでのように三木ヱ門の目を覗き、「止まったな」とぶっきらぼうに言った。
言われてみれば、涙腺に押し寄せた大波は知らないうちに落ち着いている。
塩気でぺたぺたする頬を袖で拭ってぺこりと頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けしました」
「別に迷惑じゃねえ」
そう言って文次郎は、その金輪も返してやれと顎で三木ヱ門の手元を指す。
受け取った金の蟹鐶と、玉の飾りを並べて載せた手をしっかりと握って、八左ヱ門はいかにも安堵した様子で深呼吸をした。
「はーあ……。弁償する羽目にならなくて良かった」
「あの猿が脱走したのは、もしかしてそれを探す為だったんじゃないか」
一平に抱えられたままでまた鳴き始めた小猿を肩越しに振り返り、文次郎が言う。そうかも知れないと八左ヱ門が頷き、右手の上に左手で蓋をしたのを掲げてみせると、一年生たちは控えめにどよめいた。