「あれ。これ、竹谷先輩の物なんですか?」
質問に質問で返す形になったが、微かに首を横に振ってみせた八左ヱ門は食い入るように飾りを見詰めたまま言葉が出ない。その顔色が潮の引くように白くなったかと思うと、喉に当てていた手を鳩尾の辺りまでずるずる滑らせて、そこをぐっと押し込んだ。
「俺のじゃないけど持ち主は知っている。それに、その金具は確かにこれの付属品だ。組紐の両端に付いてたやつだ」
びくつこうとする腹を無理矢理に据わらせたらしい。いつもと同じ明朗な声で喋り出し、三木ヱ門がつまんでいる金の蟹鐶を指差す。
「それじゃ、揃えて返せるんですね。良かった」
「ああ、良かった。本当に良かった」
いやに感慨深そうに繰り返す八左ヱ門を、文次郎が怪訝そうに見る。
その視線に八左ヱ門は苦笑いを返した。どこか開き直ったように見える、しかし何に対して居直ったのか分からない、そんな不思議な笑みだ。
「持ち主はあの小猿です。先輩がそれを持っていたから、怒って取り返そうとして噛み付いたんでしょう」
殊更に声をひそめるでもなくするりと言う。対照的に、三木ヱ門と文次郎は仰け反るほど驚いた。
「これが猿の? 猿って……、だって、猿だろ」
どうして動物がこんな贅沢な飾り物を、と爪の先で飾りをつつき文次郎が呆れ顔をする。
「首輪です。首飾り、と言ったほうが合っているかもしれませんが」
「こんなものが買えるような予算は出してねえぞ」
「あの猿は一時的な預かり物なんです。元々の飼い主が趣味で付けてやったんでしょう」
八左ヱ門はためらいなくそう口にして、自分もそっと組紐の端に触れる。
自分を一瞥もしないことに何かの意図を感じ、話を遮らねばと一瞬身構えた三木ヱ門は、握った拳で軽く膝を抑えて思い止まった。