「申し訳ありません――でも、泣きたくはないんです。すぐ止めます」
咽び泣きや号泣ではなく、滂沱の涙を流しながらごく普通に口をきく三木ヱ門の手に、文次郎は地面に置いていた破れ手拭いの土を払って押し付けた。
「だから無理に収めるなってんだよ。意思に関係なく涙が出るなら、それより下の所で何か凝(こご)ってるんだろう。とにかく拭け。酷え有様だ」
あとで腫れるからこするなと言われたので、とんとんと軽く叩くようにして目元を拭いてみると、手拭いはたちまちぐっしょり濡れた。どうせ自分のものなんだからと、ついでにチンと鼻もかむ。
身の置き所が無さそうにあちこちへ視線をうろつかせていた文次郎は、ふと何かを思い出した様子で袖の中に手を引っ込め、それをすっと抜き出すと少し身を乗り出した。
「そのままでいい、喋れるか」
「はひ」
鼻声になった。
「もう一回、鼻かんどけ。……この包みなんだが」
「ふふみ?」
タカ丸に借りた派手な手拭いをくるりと丸めたものが文次郎の手のひらに乗っている。
文次郎は小猿の方をちらっと窺い、興味津々の一年生達が一緒に目に入って、慌てて顔を逸らした。
「懐に突っ込んであったのを取り出したとき、畳んだ所が緩んでちょっと中が見えた」
瞬間、頭上から小猿が飛び掛かって来た。
その動きの鋭さは、追手から逃げる最中に目の前にあったものへ無我夢中で飛び移ったのではない、攻撃的な意図を感じた。
「猿の意図がお分かりになるんですか……」
「犬だってしばらく観察してりゃ機嫌が良いか悪いかくらい分かる。って本題はそこじゃねえ。実際、あの小さいのは噛み付いてきやがった」
木の下にたまたま立っていただけで、猿をいじめたことはない。それなのに牙を剥かれたのは、この包みを俺が持っているのが気に入らなかったからのような気がする。
「しかし、興味があるのは手拭いのほうじゃないだろう。これの中身は何なんだ?」