「あ」
「あれ」
小猿までいつの間にか鳴くのをやめて大人しく傍観に徹していた一団がざわざわと騒ぎ始めた。
まっすぐ顔を上げたまましゃくり上げもせずに両目から滝のような涙を流す三木ヱ門と、中途半端な位置に手を上げたまま固まった文次郎に代わる代わる目を向け、この光景は見間違いではないと、お互いの表情から確認する。
首をかしげた三治郎が最初に言った。
「やっぱり泣いてる」
「泣いてるね」
孫次郎が頷き、ぴいと鳴いた小猿を撫でた一平が眉尻を下げる。
「泣いちゃった」
「泣かしたんだ」
虎若の一言が聞こえた文次郎がびくりと肩を揺らした。傾けた桶からこぼれ出る水のように次から次へとあふれる涙を拭うことも思い付かず、ただ頬から顎から雫が滴り落ちるほど水浸しにしている三木ヱ門に、いくらか早口になって尋ねる。
「何が悲しい。それともどこか痛いのか」
「いえ――悲しくないし、痛くないんですが――目が急に、じーんとして」
三木ヱ門の答えに、文次郎が訝しそうな、困ったような顔をする。
しかし三木ヱ門は本当に、勝手に堰が切れた自分の涙腺に戸惑っていた。鼻の奥がつんとすることもないし喉の真ん中が絞られるように痛くもないし、何より、問い掛けに答えた声がまったく湿っていないのが、悲しくて泣いているのではない証拠だ。
「俺のせいか」
ひょいと三木ヱ門の後ろを見た文次郎が小声で言う。
それを受けた八左ヱ門の反応は三木ヱ門には見えなかったが、文次郎は少し鼻白んだ面持ちをした。あー、と唸って乱暴に頭を掻き、片足胡座で立てていた方の膝も倒して、きょとんとする三木ヱ門をすくうように見た。
「気が晴れるまで泣け。流しつくしちまえ。それまで待つ」