聞こえた言葉の意味が分からない。
目を見開いたまま、三木ヱ門は固まった。
吸った息の吐き出し方を突然忘れた。行き場を見失った空気が喉を塞いで声も出ない。あわあわする三木ヱ門からやや目を逸らしつつ、額にかかる前髪を無闇に手櫛で掻き回す文次郎の渋面に、少しの躊躇いの色が加わる。
「それとも俺に、お前を嫌わせたいのか」
「そんなこと!」
大声が出た。
固唾を呑んで見守っていた一年生たちがヒュッと飛び上がり、それから、そろそろと会計委員長の方へ視線を移動させる。
「……ある筈が、ありません」
蚊の鳴くような声で三木ヱ門が続けると、観察されているのを知ってか知らずか、手のひらでぐいと頬を擦って文次郎は口を曲げた。
「生物委員会の話とやらは、いずれ穏当なもんじゃねえんだろう」
鋭い目を向けられた八左ヱ門が、警策で打たれたようにはっと姿勢を正す。
「何がどうなってるのかさっぱり分からねえが、そういう危ない話をお前が手前の責任で呑み込むと駄々を捏ねるなら、その責任の中身も駄々もひっくるめて俺がお前の行動に責任を持つ。もしもその話の為にお前に何か害が及ぶことがあるならば、それを受けるのは、俺だ」
きっぱりと言い切って、文次郎はじろりと三木ヱ門と八左ヱ門を睨み回す。その勢いに圧倒されて言葉を失っていた三木ヱ門はややあって我に返り、慌ててぶんぶんと首を振った。
「駄目です、それじゃ意味がない――」
「うるせえ。俺はな、」
一言で反論を切り捨てた文次郎が、荒っぽい仕草で自分の胸を指す。
「お前の先輩で、会計委員長だ」
まるで喧嘩腰の口調で言った。