少し触れたら弾け飛びそうに精一杯気を張って顔を上げ続ける三木ヱ門に、何か言おうとしたのを途中で止めて、文次郎はきつく口を結んだ。
どうしてだか地面に座り込んだままの上級生たちは何やら不穏な事態になっているようだと、今になって気付いた一年生たちがこわごわ窺っている。見える位置にいる筈のそれさえ視界に入らず一心に正面だけを見据える三木ヱ門の目の前で、文次郎はそびやかしていた肩が下がるほど、深々と溜息を吐いた。
――ああ。
さっき打たれた心臓がどきんと痛んだ。表情を変えないように気を付けながら、三木ヱ門は膝の上に置いた手をこっそり握り締めた。
失望された。
当たり前だ。涼しい顔で嘘を吐いて、しかも開き直ったんだから。
でも、これでいい。委員長が何も知らなければ、会計委員会は何の憂いもなく、予算会議や徹夜の決算や他の委員会からの苦情に追われる日々を過ごしていられる。潮江先輩に見限られた自分は、もう今まで通りに接してもらうことはできないだろうけれど。
「田村」
無理矢理抑え込んだ感情の光を両目に湛え、一度ぎゅっと口を尖らせてから、文次郎が呼んだ。
――怒っていらっしゃる。当然だよな。殴られないだけ僥倖だ。
はい、と返事をしたつもりの自分の声が、自分の耳に聞こえない。自覚以上に茫然自失しているのかなと他人事のように考える。教科も優秀、実技も得意な忍術学園のアイドルが、なんて体たらく。
「お前を嫌いになるのは、俺には難しい」
ぼんやりと空中を漂う煙にでもなったような心地でふわふわしている頭に、苦渋の滲む声がさっくりと斬り込んだ。