「この野郎――」
「待って下さい!」
がばっと身を起こした三木ヱ門が2人の間へ割って入った。
八左ヱ門を背中で庇って文次郎と向かい合う形になった三木ヱ門の胸を、八左ヱ門の胸倉を掴み上げる寸前だった手が、勢い余って激しく打った。
骨と骨がぶつかる嫌な音がした。
「あ、」
「けふっ」
熱した鉄にでも触れたかのように、文次郎は素早く翻した手をもう片方の手でぱっと押さえ、心臓の上を叩かれた三木ヱ門は空咳をして少し姿勢を崩す。
「すまん」
よろけた三木ヱ門を反射的に支えた八左ヱ門と、ぜいぜいと喉を鳴らして胸を撫でる三木ヱ門を交互に見て、気まずそうに文次郎が謝る。
慌てて首を振った三木ヱ門は大急ぎで口を開いた。
「大丈夫で、すそれより、言えないと、竹谷先輩、が仰るのは私、が、」
「田村落ち着け。深呼吸」
気が急くのと胸骨が軋みそうになるのとで、おかしな文節で早口に喋る三木ヱ門を見かねて、八左ヱ門が背中をさする。それを見ていた文次郎は一瞬唇を噛み、その無意識の仕草を恥じるように、すぐに口角を緩めた。
「何を言いたいのか分からんが、つまりお前は竹谷を庇うのか」
またそういうことを――と八左ヱ門が苦い表情になりかけるのを制し、三木ヱ門はしっかり顔を上げて、怖い目をする文次郎と向き合った。
「潮江先輩に話の内容を言えないのは、私が竹谷先輩と共犯関係だから、です」