「本当は分かっていらっしゃるんでしょう?」
そう指摘されてしきりに瞬きする文次郎に八左ヱ門はずいと膝行して詰め寄り、深く頭を垂れている三木ヱ門を指差す。
「先輩が首を噛まれたと思って心臓が縮み上がったのが、飾り結びのお陰で無傷だったから、緊張の糸が切れて田村がへたってるってことくらい。何故とぼけておられるんですか」
「……木綿の手拭いは貴重品だ」
「だからと言って、手拭い一本と慕わしいひとの命を秤にかける馬鹿がいますか。田村がそんなやつじゃないのは潮江先輩こそよくご存知でしょうに。――なんで目が泳ぐんですか」
「いや……竹谷、お前、まだ声が酷ぇな」
「山狩りで喉が嗄れているだけです。先刻だって田村は――」
勢いで喋りかけた言葉をはっと飲み込んだ八左ヱ門の喉が、カエルの鳴き声のような音を立てる。
五年生に説教を浴びて憮然としていた文次郎がはたと瞬きをやめた。
「なんでそこで止める。気になるじゃねえか」
いつになく下がっていた眉の両端が吊り上がり、真っ直ぐ八左ヱ門を睨む目には、底光する剣呑な光が宿る。
立場は一瞬で入れ替わった。
八左ヱ門はしどろもどろに言葉を濁しつつ体を引き、今度は険相の文次郎が身を乗り出して、僅かに開いた距離を詰める。
「さっき、ってのは水練池か。何をした」
「……野合ではないです」
「そんな事は分かってんだよ。あそこで田村と何を話した」
「言えません」
びびりながらも八左ヱ門が即答し、文次郎の眉根がぎりっと寄る。