白塗りを落としても、髪を結い直しても、首に結んだままになっていた「ふくら雀」が解けている。
「自分じゃ見えないからよく分からんが、アレは俺の首を噛むつもりで"すずめ"を食い千切ったんだろう」
ひょいと一平の抱える小猿を指した文次郎の手がそのまま地面を探り、体の下敷きになっていた三木ヱ門の手拭いを引っ張り出した。
端に四菱の型押しをした地味な色目の手拭いは、錐か何かを突き刺して振り回したようにざっくりと裂け、大きな穴が空いていた。
「お陰で助かったが……駄目にしちまって、すまねえな」
「はあ。……はあ……あー……」
「これじゃ繕い様もねえか。新しいのが俺の部屋にあるから、悪いが当座はそれを――おい」
「……あー……」
「……そんなに気に入りの手拭いだったのか?」
そのまま地面に溶け込みそうなほどにへたり込んだ三木ヱ門を見て、文次郎がいささかうろたえたように丸まった背中を叩く。
土に額をすりつけて脱力したまま、三木ヱ門は呟いた。
「……良かったぁ」
「あん?」
「噛まれてなくて、良かった……」
「いや、噛まれたぞ? お前の手拭いが――」
「噛み合わねえ!!」
二人の横で黙念と正座し拝聴していた八左ヱ門が耐えかねたように叫んだ。