「わああぁ」
「やめろーっ!」
「あ、逃げる」
「捕まえてー!」
「よせ危ない離れ――ろっ!?」
生物委員たちと三木ヱ門と錯綜する声が一塊になって文次郎に体当たりした。
警告を聞く耳もあらばこそ、7人分の突進を受け止めた文次郎はさすがにひとたまりもなく突き倒されて、たちまちのうちに折り重なった人の下に圧し潰される。
ひらり――と緑の布が舞った。
いち早く飛び退って巻き添えを逃れた左吉は、もうもうと巻き起こった土埃が舞い落ちてくるその向こうの惨状を目にして、悲痛な声を上げた。
「潮江先輩!」
総重量五十貫は優に超えるだろう人の山の一番下で、わずかに覗く指の先が地面を掻く。
天辺に伏せていた一平がはっと顔を上げた。素早く膝立ちに体を起こすと抱えていた投網を放り上げ、空中でぱっと広がった網が地面へ落ちるのと同時に飛び降りる。
きいっ、とも、ぴいっ、とも聞こえる甲高い声が辺りに響いた。
「目標、確保しましたあっ!」
高らかな宣言と共に、もそもそ身動きする小猿を網ぐるみしっかりと胸に抱え込む。
「よくやった一平――」
「それより退いてよ! 潮江先輩が死んじゃう!」
「死な……ねえ……けど、どけ……重い」
積み重なる人の下の方から八左ヱ門が言いかけたのを遮って左吉が叫ぶと、窒息寸前の呻きが反論混じりに訴え、それで我に返った人山がわらわらと左右へ崩れた。