包みを持っていない方の手で頭や首をばたばたと払う文次郎の肩の上を、小人のような影が横切る。
「え、――え?」
何が起きたのか把握できないのと、この光景の既視感に囚われたのとで立ち竦んだ三木ヱ門の背後から、入り乱れた足音が聞こえてきた。
風を巻いて三木ヱ門の真横をすり抜けた、手に手に虫捕り網や投網を携えた生物委員の一団が、爪先立って旋回する文次郎へ向かってまっしぐらに突進する。
「きみこ、待て!」
孫兵が大声を飛ばす。
文次郎の頭上にある枝から落ちようとしていた蛇が、鉤型になってその場で止まる。
そうだあの先輩の動きはきみこに飛びかかられた時の小松田さんと同じだ――と三木ヱ門が気付いた瞬間、するすると文次郎の耳の辺りに奇妙な生き物が姿を現した。枝を仰いで鋭く尖った歯を剥き、ふしゃーっと威嚇の唸り声を上げる。
それに牽制されたのかあるじの命令に従っているのか、蛇はゆらゆらと頭を揺らしながらそこから動かない。
顔つきも声も猫に似ている見たこともない小さな動物は、蛇が襲って来ないのを確かめるとついと顔を伏せた。
指の長い手が文次郎の首筋をぺたりと掴む。
「何だ、何なんだこれ――」
「先輩!」
生物委員会に半拍遅れて三木ヱ門もだっと地面を蹴る。
しかし必死に伸ばした手が文次郎に届くより早く、耳まで裂けんばかりに大きく口を開いた小猿は、がぶりとうなじに噛み付いた。