「あ、田村先輩」
居たたまれない様子で視線をうろうろさせていた左吉が三木ヱ門に気付き、声を上げると、木と睨み合っていた文次郎が振り向いた。
目が合う前に、反射的に頭を下げた。自分の爪先をじっと見つめながら何から話すべきか少しの間あわあわして、無言でいる重苦しさの方が先に耐え難くなり、考えがまとまらないままぎくしゃくと言葉を押し出す。
「……団蔵を寄越してくださって、ありがとうございました。助かりました」
「そうか」
素早く答えが返って来る。
平板な口調だが、覚悟していたよりはだいぶ落ち着いているように聞こえて、三木ヱ門は戸惑った。かと言って、気が済むまで木に当たり散らして険が抜けた――という雰囲気でもない。
微妙な緊張感がぴりっと肌を刺す。
「それであの、団蔵から聞いたのですが……、食満先輩が、手拭いの包みを」
「ああ。お前に返しとけって、預かった」
目の端に見えている左吉の足が、すり足気味に少し後退した。
「さっき、」
言いかけた文次郎の声が喉に引っ掛かったように急にしゃがれ、それを強引に押し切って「渡しそびれた」と掠れ声で言う。
「――だから、まだ俺が持っている」
がさごそと衣擦れの音がする。懐か袂を探っているらしい。
「……今、渡しとくか?」
「あの!」
顔を上げるなら今だと、思い切って上体を起こす。
しかしそれと同時に、短く声を上げた文次郎が頭を振るようにしながら大きく身体を捻った。