しかし考えてどうなるものでもない。
「うわぁ」
地面の上にまだ青い葉が多く落ちている木の前へ来かかり、嫌な予感とともに幹を覗いて、思わず呻いた。
ものすごく機嫌の悪い迦楼羅天がその強靭なくちばしで渾身の一突きをして立ち去った後だと言われたら、信じるかもしれない。一体どんなぶつけ方をしたら人の額で木の幹を抉れるんだ?
「……まだこの近くに、」
いて欲しいような、いなくなっていて欲しいような。
足を緩めつつきょろきょろと周囲を見回す。少しずつ離れて並んでいる倉庫や格納庫の辺りに人影はなく、生物委員たちの声が遠く近く聞こえて来るだけだ。
その声に混ざって、どん、と重い音がした。
右手に見える倉庫を挟んだ反対側からばさばさと鳥が飛び立っていく。今回はすずめではなくカラスだったが、心なしか大慌てで羽ばたいている翼の先から、引っかかっていた葉っぱがひらひらと舞い落ちる。
「……いた……」
南無三。
合掌した心象の自分を心の中でひっぱたき、方向転換したがる爪先を無理やり蹴立てて、倉庫の方向へ舵を切る。
日陰になった板壁の前を全速力で走り、大回りしながら角を曲がって、裏手の方へ飛び出した。
木に片手をついて立っている文次郎が見えた。
その後ろで困り顔の左吉が右往左往している。