「進路妨害だぞ」
「馬じゃありません。喋ってないでしょうね」
できるものなら視線でその首を締め上げたい、と言わんばかりの目で睨んでくる。三、四年生に遅れまいと懸命について来る井桁模様を肩越しに見遣り、三木ヱ門は小声で答えた。
「信用ないな。喋っていないから安心しろ。それどころか、今となっては僕まで首が危険だ」
「ご愁傷さまです」
全くそうとは思っていない口調でおざなりに言われる。
お前のところの委員長代理に酷い演技で恫喝されたぞと言いたくなるのを我慢して、話を変えた。
「えーと、――きみこだっけ、蛇はどうした?」
「働いてますよ」
木の上か草の中か、人間とは別の方角から猿を追っていると、屋根を走る八左ヱ門を横目に見ながら孫兵が早口に言う。
「怪我をしたから休ませたかったけど、やるって言うから」
「……言うんだ」
「目で」
「孫兵、一平、右へ寄れ!」
頭の上から八左ヱ門の指示が飛んだ。
挨拶もなく三木ヱ門から離れた孫兵が倉庫に添って逸れる。驚いて振り返った三木ヱ門の目の前を走り抜けて、投網のようなものを背負った一平もその後を追って行く。
一平は伊作と一緒に虫除けの草を置いて回っていたんじゃなかったのか、と一瞬考えたが、そう言えば屋根から落ちた伊作は文次郎に捕まっている。
だから行く当てに困って、改めて生物委員会に合流したのか。
……なんとなく腑に落ちない。