あっちだこっちだとけたたましく騒ぎながら右往左往する声は、紛れもなく生物委員会だ。異界妖号を乗り捨てた小猿がこの林の中へでも逃げ込んだのか、それにしてもあんなに大声を出してバタバタしていたら、猿が驚いてますます奥へ引っ込んでしまいそうだ。
「僕が気にすることじゃないんだけどな」
孫兵は右へ回り込めー! と、一際通る声が木立の間に響く。
必死になって隠していたあれやこれやを吐き出し、一人すっきりして池の端から爽やかに駆け去った八左ヱ門がちょっぴり憎い。そう言えば屋根の上の追いかけっこの相手は結局誰だったんだろう。精密射撃さながらの石つぶてを浴びせられ、それも忍術です、と開き直ったように叫んだ相手は。
――屋根の上。
「ん?」
その言葉が、記憶の中の「何か」と「何か」を繋いだ感触がした。その結び付いた部分はなんだと思う暇もなく、深い穴、長屋の近く、落ちる、出られない、こだま、捕獲、医務室、ゼロヨン、ねずみ、"鼻薬"、と断片的な単語が次々と溢れ出してくる。
長屋の屋根から落ちた所に落とし穴があって、不必要に深いその穴から出られないでいるうち文次郎に捕まった伊作。
どうして屋根なんかに? それは異常に行動が活発化している虫を遠ざける薬草を置いて回っていたから。
どうして虫がそんなに元気? それは虎若がぶちまけた体力増強剤の蜜漬けを舐めたから――これはまだ推測だけれど。
どうしてそんな薬がある? それは伊作が生物委員会に頼まれて作ったから。そして保健委員長は希少な薬草をねだる伝手を手に入れた。
ねだる、を漢字になおすと「強請る」になるんだっけと、あまり関係ないことを思い出した。
ゆする、と同じ字面になるのは何の因果だろう。