森閑とした林の中をのろのろ歩きながら、とめどもなく溜息がこぼれる。
文次郎に会ったら……まずは謝るべきだろう。どの時点で不興を買ったのか今ひとつよく分からない。それでも自分の方に何かしら非があるのは確かなのだから、とにかく頭を下げなければ。卑屈にならないように誠心込めて――しかし、「何だか分からないけどごめんなさい」というのは真摯な態度だろうか。火に油を注ぐようなことになったら目も当てられない。
団蔵も団蔵だ。潮江先輩がそんなに不機嫌そうにしていたなら雰囲気くらい察せただろうに、なんだか上の空だった、なんて随分な見間違いだ。
八つ当たり気味にぐだぐだと考えていると、ちちち、と梢から鳥の声が降って来た。
小路を挟んで反対側の樹上で、ちゅん、と応える声がする。
「作法のすずめか?」
観察されているのかな、と思った途端、歩む足が重さを増す。
「せっかくあちこちに行けるんだから、どうせならみんなの役に立ってくれないかな? 僕を見張っても面白いことなんかないぞ。逃げてる猿を探すの手伝ってやれよ。生物委員会が困ってる。その話だって、ひょっとしてもう知ってるんだろ」
辺りに人がいないのをいいことに、すぐそばにいる誰かに話しかけるような調子で不満をぶつけてから、また溜息が出た。
手当たり次第に八つ当たりでは、あまりに自分が情けない。
すずめたちが沈黙した一瞬後、ばさばさと飛び去っていく軽い羽音がして、頭上の枝が少し揺れた。
「左吉がまだ一緒にいるみたいだし、出会い頭に問答無用――ってことはないよな……」
文次郎もそのつもりで連れているという一年生の抑止力に期待してみようか。
林の向こう側で素早く見え隠れした虫捕り網にちらりと目が行く。
そして、深い溜息を吐いた。