「嫌な予感しかしなかったから、見つからないようにそろーっと通り過ぎちゃいましたけど」
「その対応で正解だ」
「なんかあったんですか? また誰かと戦いそびれたとか、活躍し損ねたとか」
「いや、……今回は、」
鬱憤をフルパワーの頭突きで晴らすのはやめた方がいい。気付かないうちに頭の骨にヒビが入って脳に内出血が起きる恐れがあるから非常に危険だ。
じゃなくて。
何を発散しようとしてそんなことを――と、この期に及んでしらばっくれるのは……さすがに無責任過ぎるだろう。
「たぶん、僕がやってることに苛立っておられるんだと思う」
「えっ!? じゃあ駄目ですよ、いま潮江先輩に会ったら命がないですよ」
沈鬱にぼそっと言う三木ヱ門を、久作は真剣な表情をして止めにかかる。満更冗談にも聞こえないところが何とも言えず、三木ヱ門は曖昧にかくかくと首を動かして、前方を透かし見た。
怖いからと言って逃げ出したら、いつまでとも知れずこのままだ。
予算絡みの各委員会の活動について重要な報告があると決死で申し立てをすれば、私情は別にして、会計委員長として話は聞いてくれるだろう――と思う。たとえそのあとで縊られるにしても。
「そうと分かっていても行かなきゃいけない時があるんだ」
「……その覚悟がおありなら骨は拾いません。ご武運を」
「落ちてるものはとりあえず拾ったほうが」
言いかけるきり丸の後頭部を久作がひっぱたいた音を効果音に、三木ヱ門は重い一歩を踏み出した。