荷車の轅(ながえ)に渡した横木の内側に二人並んで、出て行く時の勢いとは打って変わってのろのろと歩いている。
間に合って良かった――と、車輪がきしむ音に紛れてどちらかがこぼしたのが聞こえた。
「あ、田村先輩。こんちは」
脇に避けた三木ヱ門に目を留めたきり丸がおざなりに挨拶した。その声で顔を上げた久作は、後輩のぞんざいな態度を注意するかと思いきや、「どーも」と一言低く言ってまた地面に目を落とす。
荷台には何も乗っていないが、二人の頭の上にどんより雲のような「疲労」が覆い被さっているのが見えるようだった。
「突庵先生の曾お祖父さんの自伝は返品できたのか」
「ええ、どうにか。……あれ? どうして知ってるんですか?」
声を掛けた三木ヱ門に大儀そうに返事をしてから、久作が目をぱちぱちさせる。
「雀躍集の先例から推理した」
「そうですか」
簡単そうに言ってみせた三木ヱ門に、至極簡単にきり丸が納得する。 どうやって? とは聞いてくれない。
――のは、別にいいけれど、きり丸にも久作にも悪びれる様子はない。これ以上予算を食われてたまるかと自伝を突き返しに行ったことは、図書委員会以外の生徒に知られても構わないようだ。まあ、保健委員の数馬だって巻き込まれている訳だし――
「そう言えば、数馬は? 手伝わせていたのを見たぞ」
「途中ではぐれました」
「おい」
「置き忘れて来たんじゃないですよ。学園の中に戻って来るまでは一緒にいたんですけど、いつの間にかいなくなっていて」
な、と久作はきり丸と顔を見合わせてうなずく。
改めて水を汲みに行ったのか、それとも落とし穴にでもはまったのか。……喜八郎が「あちこちに仕掛けがある」とか言ってなかったっけ。
「あー……ええとな、不破先輩には先にお伝えしたが、事務室に大量の反古紙がある」
三木ヱ門がそう口にした途端、きり丸がすごい勢いで振り向いた。