「馬に笑われた!?」
留三郎がまともにショックを受けた顔をする。
馬がこの顔をするのはどんな時か、は馬術の授業で習う。さてこれはツッコミ待ちか本気で言っているのかと三木ヱ門が判断に困っている横で、団蔵は異界妖号の鼻面をぐしぐしと撫でた。
「何のにおいがしたんだ?」
問われて、異界妖号が長い顔を傾ける。そして首を後ろへねじり、自分の背中に置かれた鞍の辺りにフンと鼻息を吹き掛けた。
一番最後にそこへ乗っていたのは小猿だ。
三木ヱ門は思わず、頭上から地面までぐるりと周囲を見回した。――近くで小猿のにおいがしたのか? と言うことは、この辺りにいるのか?
「この馬、人の言葉が分かるのか」
「人と一緒に働いてるから、結構、理解してるんですよね。……えーと、長屋へお連れした後はどうしましょう、ここに戻って来ましょうか」
不思議そうにとぼけたことを言う留三郎を軽くいなして団蔵が尋ねる。茂みの方を注意深く眺めていた三木ヱ門は、団蔵に向き直ると首を振った。
「僕はここから移動して潮江先輩を探すから、お前は清八さんを探して異界妖号を返して来い。そいつがいないと、清八さんが帰れないだろ」
「分かりました。それが済んだら医務室へ行きます。先輩も、後ほど」
「分かった。潮江先輩と合流できてもできなくても――そうだな、半刻後には行く」
あまり根拠もなくぱっと思いついた刻限を言う。団蔵は頷いて、異界妖号とじっと見つめ合っている留三郎の袖を引いた。
「食満先輩、長屋へ行きましょう。まっすぐ歩けますか?」
「ん、ああ。それくらいは」
「先輩ー、微妙に斜行してらっしゃいますよー」
少し歩いては脇へ逸れていく留三郎をそのたび引き戻していた団蔵は、やがて業を煮やしたのか、異界妖号の手綱を留三郎に結び付けた。
さすがに馬の体重を引きずっては歩けない。時折つまづきそうになりつつ、どうやら長屋の方へ向かって二人と一頭は遠ざかって行く。
留三郎の方向感覚がずれたのは文次郎に床へ叩きつけられたせいではないかと、三木ヱ門はふと思った。