「情けない仕儀だが、しばらく俺が戦力外になるから今後のことを作兵衛と相談しようと思ってな。小平太がぶち抜いた長屋の廊下の様子も確認しておきたいし」
包帯まみれの自分を指し、その割にはけろっとして留三郎が言う。
三木ヱ門は眉をひそめた。
「では、医務室から長屋へ行かれる途中なのですね?」
「そう」
留三郎が子供のようにこっくりと頷く。三木ヱ門は寄せた眉の間がきりきりしてくるのを感じた。
「――長屋は向こうです。この地点からきっかり90度、ずれてます」
右腕をまっすぐ真横に伸ばして遠くを指差す。
首をねじり、その方向を見遣った留三郎は、「うえ?」と戸惑った声を漏らした。
「……ここ、どこだ」
「このまま進めば倉庫、戻れば庭と校舎、左は焔硝蔵で、先輩は我々の右後方からおいでになりました」
「て事は……医務室を出て、なんで迂回してるんだ、俺は?」
「私に聞かれましても」
「あれぇ?」
きょろきょろと辺りを見回しながら、周囲の様子を初めて気に留めたらしい留三郎はしきりに訝しがっている。その顔色をつくづく見れば、包帯の色と相まって紅白だんだらの様相だ。
強張った眉間を揉んで、三木ヱ門は嘆息した。
方角を誤って進路がずれたのに気付かないまま進んだのか、頭では長屋へ行くつもりで無意識に倉庫へ足が向いたのかは知らないが、ひとつだけ確かなことはある。
今日はもう駄目だこの人。