「え……いや、それって、どういうことでしょう」
真顔で首をひねる三木ヱ門に、今度は留三郎が目を丸くする。
「……本気でそれを言ってるならお前こそ朴念仁だぞ」
「えーと……何人かにそれらしいことは言われましたけど……しかし、そんなことある筈が」
「田村先輩。ヤゴの時もです」
蹴鞠の儀式を観覧する見物人のように上級生たちの間で大人しく首を左右へ振り向けていた団蔵が、唐突に口を挟んだ。
「トンボの幼虫がどうかしたのか」
訝しげに留三郎が尋ねる。団蔵は「そうではないです」とぶんぶん首を振り、三木ヱ門に顔を向けた。
「一年生の僕と左吉でも、これはアレだなってなんとなく分かりました」
「アレってなんだよ」
「だって、潮江先輩が見ちゃったから――水練池の端で竹谷先輩と、とこ」
「止まれ!!」
団蔵の頭を両手でがっきり掴んで三木ヱ門が凄むと、団蔵はほとんど反射のように即座に両手を挙げた。その頭を手の中でぎりぎりと揉み転がしながら低い声を出す。
「……言葉は……選べ……」
「はひー」
「なんだか分からんが田村、下級生に乱暴はやめろ」
「あー、だいじょーぶです」
頭を絞られている当の団蔵がそう答えたので、割って入ろうとした留三郎は不承不承に手を引っこめる。そして般若のごとき表情を崩さない三木ヱ門に、やや戸惑い気味に目を向ける。
「と……じゃなくて、うーんと、ええっと、そう、そうそうそう!」
うまい言い方を思いついた顔で、団蔵が頭を押さえつける三木ヱ門の手首を掴む。
「田村先輩が、竹谷先輩と、」
「と?」
「寝かけた!」
元気に言い放ったその一言に、留三郎が凄い勢いで吹いた。