「その有り様で、よく善法寺先輩が出歩きを許可なさいましたね」
「俺が自分の意志で出歩くのに伊作の許可なんていらねえだろ」
伊作がやすやすと満身創痍の人間を医務室から出すとは思えない。しかし、懸念いっぱいに尋ねる団蔵へ軽く言い返す留三郎は、なぜそんなことを問われるのかまるで分からない、という表情をしている。
治療を放棄したり怠けたりした時の伊作は怖い。普段の温厚さは彼方へ消し飛び、相手が誰であろうと魂が縮み上がるような雷を落とすと言うのに、同級生の留三郎がそれを知らないはずがない。
熱のせいで尋常な判断ができなくなっている……のか?
だめだこりゃ、と三木ヱ門は思わず額を抑えた。面倒を避けたくて敢えて医務室へ向かわなかったのに、面倒の方からご丁寧に出向いてきた。
「――それに伊作は今、医務室にいないし」
「へっ!?」
留三郎が付け加えた一言に、まさか文次郎の訊問から逃げるつもりなのかと団蔵が声を裏返す。
「ど、どこへ行かれたんです? ご存知ですか?」
「水を汲みに行った。当番が帰って来なくて、水瓶が空っぽなんだと」
「あ……、数馬、まだ戻れないんだ」
図書委員のきり丸と久作と一緒に、返本のつづらを満載した荷車を押してすっ飛んでいくのをだいぶ前に見かけた。数馬がその騒ぎに巻き込まれた一部始終を伏木蔵たちから聞いていた三木ヱ門が呟くと、留三郎は首をかしげようとして、痛そうに眉をしかめた。
「数馬がどうとかは知らないけど、伊作は追っ付け医務室に戻るだろ。絶対にここを離れるなって文次郎に釘を刺されてた――っと、そう言や鍛錬バカは一緒じゃないのか」
「……用があって、探しているところです」
「ん? ……あれ、団蔵と左吉を連れて田村を探しに出て行ったんだよな。で、田村は団蔵とここにいるのに、あとの2人はどこ行ったんだ? あの手拭いの包みを文次郎に預けたんだが、受け取っていないのか?」
「あー、えーと」
質問を重ねてくる留三郎に、三木ヱ門は説明に困って口ごもる。
一度顔を合わせて別れた後に団蔵だけ再合流しましたと言えば簡単なのだが、そうなった経緯が三木ヱ門自身にも今ひとつ分からないから、ややこしい。
「チーム牡羊座」
「はい?」
ぼそっと留三郎が言い、三木ヱ門は目を瞬いた。
「俺はな、お前の先輩に、俺が不埒者みたいな言い方をされたぞ」
「はい?」