どこからともなく声がした。
三木ヱ門が団蔵を見ると、団蔵はぶるぶると首を振り、逆にもの問いたげな表情で見返してきた。今度は三木ヱ門が否定の仕草をして、二人同時に首を傾げ、そろって異界妖号に目を向ける。
「……露骨にとぼけられるとさすがに傷つくなぁ」
異界妖号の逆方向から苦笑いの声がかかり、三木ヱ門は溜息ひとつついて振り返った。
「今日は店仕舞いではなかったんですか」
「店を閉めたのなら店主は出歩いたっていいだろ」
よく分からない屁理屈を言って、留三郎がひょこひょこと歩いて近付いて来る。右足を軽く引きずっているのを妙に思ってよく見れば、どうやらがっちり固定されているらしく、膝が全く曲がっていない。
他にも首から腕から両手から、衣服の外に見えている部分はほとんどが包帯まみれだ。
「タソガレドキの忍び組頭とやらのような風体になられましたね」
「一緒にするなよ。顔はほぼ全開だぞ、俺は」
左目の目尻の上辺りで十字に交差する包帯を指さし、留三郎が主張する。確かその辺りにひどい打撲痕があったなと思いつつじっと顔色を窺ってみると、ほんのり赤みがさしている上、目に水の膜が張っているようにさえ見える。
「……あの、熱がおありなのではありませんでしたっけ。安静になさったほうがよろしいのでは」
留三郎の涙目に団蔵も気付いたらしい。控えめに自制を促すが、留三郎はそれをどこか浮ついた調子でからからと笑い飛ばす。
「乱太郎と左近の治療で小半刻ばっかり意識がぶっ飛んでたから、それで休養は十分だ」
それは気絶というのではないだろうか。確かに、気絶と睡眠の違いは導入部だけのような気もするが。