上級生はみんな大人びて見えると団蔵がぶつぶつ言っていたのを思い出す。それにひきかえ自分たち一年生はあちらへウロウロこちらへウロウロ、なんて落ち着きが無いことか。
しかし三木ヱ門からすれば、自分が一年生の時に憧憬と共に見上げた四年生とは、学年は同じになっても未だ及ばないことばかりだという自覚がある。
が、四年生の今は下級生がいる。あの頃の自分と同じ眼差しを持った後輩の前で、失望させるような真似はできない――
と言うよりカッコつけたい。みっともない姿はできるだけ見せたくない。地面につまずいて派手に転んだり、怪談話を聞いて怯えた顔をしたり、自棄を起こしてむちゃくちゃな行動をしたり、辺り構わず怒鳴り散らしたり、頭を抱えて泣き叫んだり、いろいろと。
どんな衝動に襲われても(あるいは思いがけない草の罠に引っ掛かっても)、隣に下級生がいるだけでそれらの言動をぐっと我慢することができる。
左右にそれぞれ一年生が控えていたら、何かの拍子にタガが外れそうになっても強力なストッパーになりそうだ。
「……潮江先輩のタガが外れるようなことって、なんだ?」
団蔵と左吉を敢えて連れ歩いていたのは、下級生の視線という抑止力を期待してのものだったというなら、文次郎は自分が激情に駆られるような事態が起きることを想定していたのだろうか。
「潮江先輩は元からタガが吹っ飛んでる気がします」
「失礼なやつだな。あれでもだいぶ理性的なほうだぞ、うちの生徒の中では」
「その物言いも失礼ですよ……」