このまま無作為に歩き回るよりはやはり医務室へ向かったほうがいいのか。しかし先回りして待ち構えている所へ首尾良く文次郎が戻って来ても、さっきの池の端のような態度を取られては、身の置き所がない。
歩きつつ悩みながら何気なく下ろした足が、突然地面に縫い止められた。
「えっ」
次の一歩が空を踏み、一瞬、身体が浮き上がる。
転ぶ、と覚悟したその時、慌てて手を伸ばそうとする団蔵が視界の端に見えた。
「……ふん!」
浮いた足を無理やり軌道修正して予定着地点より大幅に前へ踏み出す。体勢は崩れたものの、手も膝も地面に着けずに、なんとか堪えた。
アキレス腱を伸ばす柔軟運動のような姿勢で後ろ足の方をよく見ると、爪先が草同士を結んだ弧の中にすっぽりと入っている。
「危ないなぁ、何だこれ? 先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。驚いたけど」
爪先で草を引っこ抜いて足を解放する。周辺を警戒せよというサインかただのいたずらか知らないが、一年生の前でコケるなんて格好悪いことできるか。
……一人歩きしていたら、驚いているうちに呆気無くコケていたかもしれない。
「抑止力、か」