「さっき背中に乗せてたの、誰?」
団蔵に尋ねられた異界妖号の耳がへなっと垂れた。
「一応聞いてみるんだな」
何となく、「えー、そんなこと言われてもー」と困り笑いをしているような雰囲気を感じる。
声を出した三木ヱ門の方に顔を向けた異界妖号が、今度はピンと耳を立てる。
「万が一という場合もありますし」
「馬が喋るってエドか」
「穢土転生ですか」
「もう色々と違う」
「先輩、誤魔化そうとしていらっしゃいますよね」
「それが分かっているなら意図を汲め。――ほら見ろ、怒ってる」
放ったらかしにされた異界妖号が耳をぴったり後ろに倒し、目を尖らせているのを見て、三木ヱ門は異界妖号から少し離れた。馬がこういう顔をした時、うっかり後ろに回ってしまうと強烈な後ろ蹴りが飛んでくる危険がある。
団蔵はさすがに恐れ気もなく手綱を引き、馬の額をぽんぽんと軽く撫でた。
「築山の所で仰っていた、"四年生の一存で話せることじゃない"話に関係あるんですね」
「そう理解してもらえるとありがたい」
ついでにどこかで潮江先輩を見かけていないか異界妖号に尋ねてみてくれと言うと、団蔵は言下に「無理です」と断った。
「なら左吉だ」
「無理ですってば。一年は組なら、出席を取る! って言えば集まってくるけど」