異界妖号を連れて正門で清八を待つかと三木ヱ門が声をかけると、団蔵は首を振った。
「今の仕事は先輩のお手伝いです」
「あ、そ……」
ぽくぽくと馬を牽いて歩くのは否応なしに目立つ。今の文次郎が先にこちらを見つけたら、声を掛けずに回れ右されてしまうような気がした。
急に避けられるようなことをした覚えはない、んだけど。
「それより先輩」
「ん?」
ぐっと近付けてきた団蔵の目が輝いている。これは良くないしるしだぞ、と思わず身構えた。
「あの猿、何ですか?」
「……覚えてたか」
「そりゃあもう」
白っぽくて毛の長い、見たことのない姿だけど、目が大きくて猫みたいな可愛い顔をしていた。
走り過ぎた一瞬しか目にしていないはずの猿の特徴をつるつると口にする団蔵に、三木ヱ門は胡乱な顔を向けた。
「動体視力がいいんだな、お前」
「へ? え、へへへ」
「馬と意思の疎通ができるみたいだし」
「赤ん坊の頃から一緒に育ってますから」
「だから異界妖号に聞け」
「そんな無茶な」
無茶は承知だ。
それでもつい、喋ってくれるなよと思いを込めて異界妖号の顔を見ずにはいられなかった。