歩いて探すしかないのか。
医務室で待っていればいずれ戻って来るのかもしれないが、医務室には留三郎がいる。伊作が隠していた"鼻薬"を調べるという約束はひとまず完了したものの、文次郎に託した手拭い包みが三木ヱ門に返って来ていないと留三郎が知ったら、また何か面倒な事態が起こりそうだ。
「怪我人は大人しくしていてほしいな」
「潮江先輩が怪我人?」
三木ヱ門の独り言に反応して喜八郎が首を傾げる。ふくらすずめを付けて歩いているのを見た時は元気そうだったけど。
「いや、怪我をしているのは食満先輩だ。橋を架けに行った先で厄介事があったそうだ」
「ふーん。用具委員会、今月は災難だね」
「……で、こちらの災難はどうするんだ」
まさか本当に埋めはするまいなと危ぶみつつ、落とし穴を指差す。
「五年生なんだから、自力でどうにかして頂きましょ」
ただし、どうしても上れなくて降参する場合に備えてしばらく見ていると、懐から一巻きの縄を取り出して喜八郎は涼しい顔をする。そして、ひらひらと手を振った。
「だから、もう行っていいよ。馬も見つかったし」
「分かった。団蔵、清八さんはさっきの指笛で呼べないのか?」
「うーんと、教室の中で吹いたのがたぶん聞こえてると思います」
だからそのうちこの辺りに来るかもと、異界妖号の鼻面を撫でて団蔵が言う。
そしたら「2人はあっちへ行った」と清八に教えておくと喜八郎が請け合ったので、あとを頼んでようやく歩き出した。
落とし穴は沈黙したままだった。