その目を、気味が悪いほど静かになった落とし穴の方へ向ける。
「鉢屋先輩は片付いたけど、あっちはどうする?」
「どうするって、」
「埋めちゃおうか。――なんちゃって、冗談」
土を掘る真似をして、喜八郎は満更冗談でも無さそうな口調で言う。
「中で何が起きてるのかは知りたくないけど……あそこから脱出するにはどれくらい時間がかかる?」
「深さは大体、身長の二倍半くらいある」
肩車の上に肩車を乗せるか何かして三郎は出て来られたのだろうと、尺取虫のように指を動かして喜八郎が推理する。残る2人だけでは、どんな組体操を展開しても穴の縁へ手は届かない。
「けど、運良く鉤縄を持っていたらなら、すぐに上がって来られる」
つまり未だに雷蔵と兵助は穴の底ということは、即ち鉤縄を持っていなということだ。三郎が剥がして捨てたようなぬるぬるに纏わりつかれているのなら、苦無や寸鉄を持っていても、それを手掛かりにウォールクライミングをするのは難しそうだ。
それなら当分、五年生に追いかけられる心配はない……かな。
「喜八郎、潮江先輩を見かけなかったか」
俳諧、じゃなくて徘徊しているという文次郎の現在の居場所は分からない。少しの躊躇もなく首を横に振る喜八郎に、「忍雀の情報網で探せないか」と続けて聞いてみると、「すずめのブロックサインの読み取り方が分からない」と頼りない答えが返ってくる。