「最悪の事態は常に想定していた方がいい。いざという時の心構えができる」
「心配し過ぎると髪に悪いよ」
「十三で頭髪の心配をしてたまるか」
「まあ、真面目なんだよね」
褒めるでもからかうでもなく、それがごく当然であることのように喜八郎が言ったので、言い返す時機を逃して三木ヱ門は口をへの字にした。
「……真面目ついでに、もう一言物申す」
「拝聴しましょう」
「すずめに竹谷先輩の顔を覚えさせるのは、生物委員会が隠している”面白いこと”を探り出すため集中的に情報を集めさせたいから、でいいんだな」
「そうみたい」
あまり興味が無さそうに喜八郎が頷く。
他人がどんなに面白がろうと、自分にとって興味が無いことには徹底して無関心なのが喜八郎だ。考えてみれば、仙蔵と藤内、兵太夫が八左ヱ門を捕まえようとした挙句に地下道へ落ちて来た時も、その捕物に参加せず穴を掘っていた。
「忠告と言っては差し出がましいが、その一件にはあまり深入りしないほうが賢明だと思う」
巡り巡って小猿の経歴にたどり着いてしまったら、また八左ヱ門が胃を痛めつつ強面をつくることになる。
生徒の首を次々と懸け並べるのは八左ヱ門の本意からは程遠いということは理解した。そして、否応なしに連座した三木ヱ門もその意気には同感だ。