「ふぁお?」
「そう、顔だ」
言うなり仙蔵は鼻を摘んだ手を離し、身体を反転させながら、三郎の首にがっちりと腕を巻き付けた。
「あの、立花先輩!?」
首を吊られるような体勢になった三郎は仙蔵の腕に手を掛け、足をじたばたさせた。それを全く意に介さぬ様子で、三郎を引きずって仙蔵は歩き出す。
「心配するな。少しの間その顔を借りるだけだ。怖かったり痛かったりはしない」
「今まさに怖いし痛いんですが!?」
「耳元で大声を出すな、うるさい」
「下級生いじめだっ。六年生の横暴だあっ」
蛇行する足跡を残し抵抗むなしくずるずると引かれながら三郎が叫ぶ。が、仙蔵はやはり楽しそうだ。言いたい放題言われているのに、どことなく足取りが弾んでいるようにさえ見える。
喜八郎がくすんと鼻を鳴らした。
「ドナドナ」
「歌うなよ。――それが可能かどうかはともかくとして、竹谷先輩の顔をすずめに覚えさせる、ってことでいいんだよな」
「しー」
状況を整理しようと三木ヱ門が質問すると、喜八郎は口の前に指を立てた。静かになった落とし穴をチラッと見て、もう一度「しい」と言う。
「一応、部外秘なんだ。五年生には特に」
ひそひそと声をひそめる。仕方なくそれにならい、三木ヱ門は喜八郎と額を突き合わせた。
「本物の竹谷先輩が、顔を貸せと立花先輩に追い詰められているのも見た。何をするつもりなんだ?」
「追跡の練習」
「すずめが?」
「あと、情報収集」
「……すずめ、が?」