「顔?」
頬に手のひらで触れようとして思い直し、手の甲でぺたぺたと叩きながら三郎が訝しげに言う。
「作法委員会のお眼鏡にかなうほど上等な出来でもないと思うけど――この顔がどうかしたのか」
こんな状況だが、三木ヱ門も喜八郎がどう答えるのか気にかかり、一寸刻みに後ずさりながら耳をそばだてた。
地下道で八左ヱ門を捕らえようとした仙蔵も、「その顔」ならば中身の真贋はどちらでもいいとひそひそ声で言っていた。みなぎる不穏な雰囲気といい突然の落盤といい、あの時八左ヱ門の顔が必要な理由を尋ねてみる余裕はなかったが、興味はある。
「覚えさせるんですよ」
素っ気なく喜八郎が言った。
「誰に」
「すずめ」
「……あ?」
からかわれたと思ったのか、三郎の眉間にぎゅっとしわが寄る。しかし喜八郎はどこ吹く風だ。
三木ヱ門は鞍から異界妖号の頭へ飛び移って澄ましているすずめに目をやり、それから、は組の教室にどこからともなく現れたすずめを思い浮かべ、喜八郎が「指令が飛んできた」と言ったのを思い出した。
鷹狩の作法の勉強に必要な鷹がどうしても用意できないから、代用にできないかと仙蔵が鍛えたすずめは結構いい線まで行った――という話は、話半分に聞いていたが、もしかしてもしかして。
「ひえっ」
突然、三郎が素っ頓狂な声を上げた。
気配もなく忍び寄った誰かに背後から襟首を掴まれている。