「ああ、えーと、ありがとう……? って、何に対してのお礼なんだ?」
どうやってそれを知ったのかを脇に置けば、喜八郎の言うピンチがは組の教室で五年生に取り囲まれていたことなら、それは自力で脱出したのだ。 全く要領を得ない三木ヱ門の顔に、喜八郎がピッと指を向けた。
「今からするよ」
「人を指さすんじゃない」
「違う。後ろ」
「あ、五年生だ」
異界妖号に説教していた団蔵が喜八郎の指した方を見て呑気に言う。
ぎょっとして振り返った三木ヱ門は、丁度こちらに気付いたらしい三郎とバチリと視線がぶつかって、飛び上がりそうになった。
三郎が別の方角を見回していた雷蔵と兵助に何か話し掛ける。2人もこちらを確認したのが見えた。
「あれ、竹谷先輩?」
「中身は鉢屋先輩だけど言ってる場合か! 団蔵、逃げるぞ!」
異様に早い小走りで近付いて来る五年生を前に悠長に質問してくる喜八郎に地団駄を踏みたい気分になりつつ、三木ヱ門は団蔵に叫んだ。
団蔵と異界妖号が揃って首を曲げる。
「そう言えばいつの間に久々知先輩と、鉢屋先輩? が、加わってたんですか?」
「そうか、あの状況で寝てたんだったなお前は」
「はい注目ー。2人とも、もうちょっと馬にくっついてて」
不意に喜八郎が手を叩いた。いつ拾ったのか小枝を一本右手に握っている。 言われるまでもなく今更異界妖号の影に隠れようと試みていた三木ヱ門は、一歩前に出た喜八郎がスッとその場にしゃがむのを見た。
「ほい」
気の抜ける掛け声と共に小枝で地面を叩く。
途端、五年生たちの足元が崩壊した。
目を瞠る暇もなく、驚愕混じりの悲鳴は次々と地面に吸い込まれ、ややあってから重い音が三回、続けざまに耳に届く。
「感謝したまえよ」
「……ありがとう」
そっくりかえる喜八郎に素直に頭を下げると、喜八郎は得意気に肩をそびやかした。