「何を止めるんだ?」
「……なんでしょうね? 食満先輩から預かった包みを田村先輩に渡しに行く時も、僕らは医務室で待ってろと言われると思ったんですけど、2人とも一緒に来いって」
結局包みは渡しそびれ、その包みをどうするのかと一年生に問われて沈黙した文次郎は、すぐに医務室へ戻ろうとせず辺りを歩き回っていたらしい。
左門ほどではないが、文次郎もぐだぐだと迷うことをしない果断実行型だ。どう見ても無目的な彷徨と、何を尋ねても生返事ばかりの挙動不審振りを団蔵と左吉が訝しみ始めた時、突然「田村を手伝って来い」と団蔵に命じた。
「それならさっきそう仰れば良かったのに、変だなあ。とは思いました」
全力に近い速さで走りながら息も切らさず、団蔵が説明する。
「確かに、分かんないな」
「竹谷先輩が会計委員に協力してくださる訳じゃないんですよね?」
「それはない。左門は自室に引っ込んでるし、僕は単独で動いていたんだが、一人じゃねぇんだろとも仰ったし……」
「あ、異界妖号!」
前方を指差して団蔵が大声を上げた。
はっと前を見れば、まだ興奮冷めやらぬ様子の異界妖号が土を掻いたり長い尾を振り立てたりしながら、それでも大人しく築地塀の側に佇んでいる。精一杯目を凝らしてみるが、その首っ玉にしがみついている小猿の姿は見当たらない。
その代わり、異界妖号の向こう側から手綱を掴んだ人影がひょいと現れた。