咄嗟に団蔵の腕を引っ張り、思い切り横へ放り投げた。
「伏せ」
ろ! と言い終わる前に、重い地響きと共に旋風が鼻先を駆け抜ける。舞い上がる土埃と吹き乱される髪から両腕で顔を庇いながら見えたのは、疾走する一頭の馬だった。
清八の異界妖号だ。まだひとりでうろついていたのか、鞍上に手綱を取る乗り手はいな――
三木ヱ門は目を見開いた。
埋もれていた茂みからひょっこり顔を出した団蔵が感心した声を上げる。
「おお、凄い。完璧なモンキースタイルだ」
「じゃなくて、本物の猿だ!」
そう叫び、何を考える暇もなく、三木ヱ門は異界妖号のあとを追って駆け出した。
馬のたてがみを掴んで首元に器用にちょこんと座っていたのは、見たこともない姿の、左門曰く「猫みたいな変な顔」の、手のひらにさえ乗りそうに小さな生き物だった。
あれこそが生物委員会がてんてこ舞いさせられている、目下脱走中の"御猿様"に違いない!
「今のリスみたいな猫みたいなの、猿なんですか?」
ものも言わず走り出した三木ヱ門を律儀に追いかけて、団蔵が不思議そうに尋ねる。
……そう言えば一年生に小猿の一件は話していないんだった。
あんな珍しい生き物をばっちり見てしまったあとで、「気にするな」で一蹴できる訳がない。現に団蔵の顔にはみるみるうちに好奇心があふれ始めている。
なので、強引に話題を逸らした。
「潮江先輩は、左吉と医務室へ戻られたんじゃないのか」
「そのはずです。でも、まだハイカイしてらっしゃるかもしれません」
「俳諧?」
いつから委員長は歌詠みになったんだ。
「徘徊です。うろつき回るほう」
「そっちか。――なんで?」
「ぶつぶつ仰ってたけどよく分かんないです。それに、僕と左吉は抑止力だって」