「いぃぃ!?」
「ひぁっ」
「……く!」
間近でまともにその音を聞いた五年生たちは両手で頭を抱え、耳を押さえて身体を折り、声ならぬ声で喘ぐ。
三木ヱ門は振り向きつつの立ち上がりざまに腕をブンとひと薙ぎし、真後ろにいた兵助の膝裏を肘で叩いた。
不意の一撃によろめいた兵助が体勢を崩して膝を突く。その背中に手をついて飛び越え、まだぼんやりしている団蔵に「抜き打ちテストだ!」と怒鳴ると、瞬時に覚醒した団蔵はまっしぐらに開けっ放しの黒板へ突進した。
団蔵に続いて三木ヱ門も頭から隙間の穴へ飛び込み、ろ組の教室へ転がり込むと、黒板へ飛びついて思い切り横に引いた。
がらがらぴしゃん! と景気のいい音を立てて仮の通路が閉じる。
「外へ出るぞ」
ここはどこだときょろきょろしている団蔵の手首を引っ掴み、教室からも駆け出す。
廊下を曲がり、階段を二段抜かしに走り下り、校舎の外まで一気に突破する。ちらちらと背後を警戒するが五年生たちが追って来る気配は無い。団蔵の指笛は強烈に効いたようだ。
「先輩、馬も、テストも、いません」
半歩遅れて走りながら団蔵が不思議そうに言う。三木ヱ門はその頭をはっしと掴み、撫でようとして思い直し、振り回した。
「あわわわわわわ」
「大したエルラッドだ、お前は」
連絡手段どころか音響兵器として実用に耐えてしまった。あれほどしっかり耳を塞いでいたのに、じんじんと鼓膜が痺れる感覚がする。
「何ですかそれ。それに、どこへ向かってるんですか?」
「医務室。潮江先輩の所。ここまでに分かったことをお話しする」
「今、いらっしゃるかな」
「えっ?」
団蔵の手を掴んだまま三木ヱ門は急に足を止めた。つんのめった団蔵が背中に衝突して潰れた声を上げる。
それはどういう――と三木ヱ門が尋ねかけるその後ろから、大きな影が風を巻いて突っ込んで来た。