「職権濫用には賛同しかねます」
「なに、濫用ではなく正当行使だったという方向に持ち込める理由をでっち上げればいいだけの事だ」
「でっち上げ、って既に自白してるじゃないですか」
「生来の正直者でね」
「どこまで本気で仰っているんです?」
「最初からここまでずっと本気」
「成程」
なるほど。
胸の内でもう一度噛み締めるように呟き、表面上はやや不貞腐れた態度を保ったまま、三木ヱ門は猛烈な勢いで考え出した。
裏予算案のことを文次郎に喋るなら自主練習に使う火薬を回さない、と兵助は言った。
公私混同の横暴だと力いっぱい糾弾したい、つまり三木ヱ門にとってある意味一番痛い所を突かれた、これも脅しだ。まったく、上級生に凄まれるのは今日何回目だ?
照星には既に一度完膚なきまでに叱り飛ばされているのだ。このうえ更に駄目出しを積み上げられるくらいはなんでもない。……ことはないけど、へこむけど、少しくらい褒められることをして見せたいって下心はあるけど、でも。
春子に鹿子にユリコにさち子。丁寧に磨き上げ丹念に手入れをするのは楽しい。しかし、ただそれだけで一度の発射も出来ずあとはしまい込むばかりでは、ただの少しばかりごつい人形遊びだ。
そして僕に人形遊びの趣味はない。
道具として生まれたものは使われる時こそが最も美しい。
彼女たちが一番輝ける機会を失わせようとするならば、たとえ上級生でも許さない!
「……してはいけない脅しをしましたね」
「ん?」
「団蔵っ」
鋭く声をかけると、ゆらゆらしていた団蔵だけでなく、五年生たちまで一瞬動きを止めた。
「馬が逃げたぞ。呼び戻せっ」
「ふぇ? あー、大変だ」
頭ごなしに言われて寝ぼけ半分の団蔵が指をくわえる。三木ヱ門は素早く両手を上げてきつく耳を塞ぎ、事態を把握しきれない五年生は対応が遅れる。
猿叫に似た凄まじい高周波音が、は組の教室をびりびりと震わせた。