「こっちに負い目があるから疑わしく見えるってのは分かってるんだけど」
衒いもなく言って、三木ヱ門の背中に押し付けた手の指をぱた、ぱた、と不機嫌な猫の尾のように動かす。
「用心しておいて損はない。で、校舎に走った」
雷蔵を探して善後策を話し合うために。
兵助が顔を向けたのか、雷蔵が三木ヱ門の後ろへ目をやり、ほんの少し困ったような表情をした。手持ち無沙汰そうに垂らしていた腕を緩く組んで首を傾げる。
「と言っても、私にも潮江先輩をごまかせるような名案はないよ」
「それをこれから考えようってこと。――が、雷蔵が田村たちにさらわれて、只今の状況なわけだ」
「そして私は絶体絶命なんですね」
半ば自棄気味に三木ヱ門が言うと、兵助は平然と「その通り」と答えた。
「参考までにお尋ねしたいのですが」
「どうぞ」
「肩を捩じ切られてでも事の次第を会計委員長に報告すると言ったら、どうなりますか」
「職務に殉じた志を褒めてあげよう」
「……それはどうも」
「渡辺綱じゃあるまいし、腕をもぎ取ったりはしない。安心しろ」
さすがにバッサリ行かれるとは思わないが、それでもさっきのショルダークローは十二分に効いた。肩に痕がついたんじゃないかと、三木ヱ門はふと気になった。
「ところで俺は火薬委員会委員長代理だ」
いくらか改まった口調で、兵助が知れきったことを宣言する。
「存じています」
「生徒からの火薬持ち出し申請の受理と却下は、俺の判断でする」
「それも存じて――」
「田村。田村は来月、佐竹村へ火縄銃の指導を受けに行くと言っていたな」
尊敬する狙撃手に格好悪い姿は見せたくない。その為の事前練習は、まだまだし足りないだろう?