「第三段階、さぶろ――」
「ごめんなさい黙ります蹴るのやめて。それ結構痛いんだ」
兵助が言いかけ、両手で口を押さえた三郎が頭を垂れた。
人件費を削れば品物の値段が安くなるから、クラスで使う雑巾を縫っていた庄左ヱ門(と伊助)は健気? ってどういう意味?
酔っ払いの戯れ言のような三郎の言葉をまとめてみて、三木ヱ門はこっそり首をひねる。その心は「今までは商人から買っていた雑巾を自分たちで作ることにした、それもお駄賃なしで」か? きり丸が聞いたら滂沱の血の涙を流しそうな話だ。古布をささっと縫えば作れる消耗品を予算を割いて購入していたことと、タダ働きを強いられることと、で。
私の委員会の――とわざわざ頭に付けたのは、学級委員長委員会が計上した"つづら代"に繋がってくると仄めかした、ような気がする。それとも、単にからかうつもりか。いずれにせよ雷蔵は知らない話だったようだが。
……やっぱり、予算を余らせる方策は安全のために互いに知らせずにいるのか?
ならここで「つづら代」「鳥の子玉代」の話題を出したら、火薬と学級の委員長代理に何か作用するかも――
ぐっと首の後ろを押し込まれて、三木ヱ門の思考が中断した。
「同じことを何度も言わされるのは好きじゃない」
低い声で兵助が言う。
「だから話を進めよう。……善法寺先輩が立ち寄らなかったかと尋ねるついでに、焔硝蔵の中に誰かいるのかと仰った潮江先輩に、俺は咄嗟に"伊助がいる"と答えた」
目を泳がせたり言い淀んだりせず、すらりと言ってのけた自信はある。文次郎も不審そうな顔はしなかった。そうか邪魔したな、とだけ言ってそのまま立ち去った。
が。
気になった。どうしても気になった。文次郎は"伊助"の声を聞いたのでは。正体に気付きながら、嘘を吐いた兵助を問い質さず知らぬふりをしたのでは。それならその意図は奈辺にある? まさかこちらの企図を知って、敢えて泳がせているのでは?