教室の隅の掃除用具入れを意味有りげに見やり、芝居がかった仕草で額に手を当て首を振る。
「あああ。私の委員会の一年生は、実に健気だよねえ」
「庄左ヱ門と彦四郎ですか?」
彦四郎は知らないが、庄左ヱ門も伊助と一緒に団蔵が作文に四苦八苦する傍らでちくちく縫い物をしていた筈だ。
三郎が大きく頷いた。雷蔵が胡散臭いものを見るような半眼をしたのが、三木ヱ門の目の端にちらりと映った。
「物の値段にはその品が売りに出るまでにかかった人件費が含まれる。それも、かなりの割合で」
「知っています」
こちとら会計委員だ。
その返事に、しかし三郎はにんまりした。八左ヱ門の顔であって決して八左ヱ門ではない表情で何故かしら楽しそうにゆらゆらと頭を揺らす。何をしているのかと思えば、どうやら船を漕ぐ団蔵の真似をしたらしい。
「と言うことはだ。人件費を削れば値段は安くなる、という理屈にならないか?」
「……理屈の上ではそうとも言えます」
材料の原価とか生産数、販売数、需要と供給の兼ね合い等々、値段の決定要因はひとつではない。故に三郎が言うほど単純な話ではないが、作ったり運んだりする人への手間賃の削減は一因にはなりうる。
作ったり運んだりする人の不満を除けば――だが、そんなものは承知の上だろうに。
「そう、言えるんだよ。だから健気だと言うんだ」
「三郎お前、酔っ払ってるのか? 訳が分からないよ」
上調子に喋り続ける三郎に、三木ヱ門が言いたいことを雷蔵が言った。
「まさか。素面だよ」
「なお悪いな、それは」